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さんぎょうスパイそしき・室見屋の巻
昭和36年2月__
ここは日本でも有数の大都会・カケゾラ県カケゾラ市。
ただいま、この町の人々は、なぞのさんぎょうスパイそしき・室見屋のうわさでもちきりです。
このそしきは、年あけそうそうにカケゾラ市でも指おりの、金属をあつかう大きな会社の重役をゆうかいして、その会社がひみつでけんきゅうしていた「とうめい金属」のつくり方をしるした書類をまんまと手に入れてみせたのです。不幸中のさいわいだったのは、けんきゅうがまだはじまったばかりで、大きく世間をさわがせるような物質にふれていなかったこと。
けれども、だいたんな室見屋は、ボスである「社長」じきじきに、こんな声をふきこんだテープを書類をしまっていた金庫にのこしたのです。
『フハハハハハハハ!われわれは室見屋というものだが、カケゾラ市民のしょくん!これからわれわれはカケゾラ市のゆうめいな会社のひみつをぞくぞくとにぎって、カネをもうけるつもりだ。キミたちはせいぜい、ふるえる夜をすごすがよい!』
さて、町中 の人々が、あいさつをするかのようになぞのさんぎょうスパイそしき・室見屋のことをうわさしあっているときに、そんな賊なんて「われ関せず」というたいどをとっている市民もいました。
終戦直後にたてられた「園祇ビル」というコンクリートづくりの建物に住んでいる、24さいの娘さんです。
その娘さん、ふだんよりはたらいている感じも見せず、毎日のように昼間から貸本屋さんに入りびたっては、店主にけむたがられたり店に出入りする子どもたちにからかわれたりしています。それでも娘さんは、近所の小学生の男の子たちにまじっては、今日も今日とて『少国民畫報』を立ち読みしています。
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