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商人の行方
ジークの後について行くと、大通りから1つ外れた細い通路に出たが、その先は行き止まりになっていた。通路の先には小さな川が流れている。
「まさか、川から逃げたんじゃ・・・・・・」
「その、まさかですよ」
私は川の手前にある手すりから、川の中を覗き込んだ。すると、水面近くに緑の光の残骸が漂っているのが見えた。
「川に飛び込んだの?」
「いえ・・・・・・。私が覗き込んだ時には、跡形もなく消え去った後でした。空中で転移魔術を使える訳がないし、一体どうやって逃げたんだか・・・・・・」
「たぶん風魔法ね」
「風魔法って・・・・・・。ここからでは、高さが足りないので風圧が・・・・・・。って、そうか!!」
「自分自身に風魔法をかけて、何処かへ飛んで行ったのでしょう。着地に失敗して、怪我でもしてないといいのだけれど」
後ろを振り返ると、ユリウスが通路の端に置かれている絵を眺めていた。他の商品は置かれていなかったが、絵の下には大きな敷布が敷かれている。
「どうかしたの、ユリウス?」
「陛下・・・・・・」
「え? この絵・・・・・・」
そこには、かつてアイリスとして生きていた頃に、城の禁書庫で見たムンクの『叫び』に似た絵が置いてあった。魔力を吸い取ると言われていた絵は、前世と違って色褪せていない。
「キース様、付近を捜索しましょう。逃げていなければ、この辺りに潜伏しているはずです」
「ええ・・・・・・。ちなみに、ジークはどうしてこの絵が怪しいと思ったの?」
「闇魔法の痕跡を感じます。どうやって使用するのかは分かりませんが、あまり良くない感じがしたので、商人にどういうものか尋ねたのです。そしたら、急に逃げ出してしまって・・・・・・」
「ジーク、ユリウス、二手に別れてこの辺り一帯を探しましょう。逃げた商人を捕まえたら、私のところへ連れて来てちょうだい」
「「はっ!!」」
私は絵を一瞥すると、ジークに逃げた商人の特徴を聞いて、ユリウスと共に市場や辺り一帯を探し回ったのだった。
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