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亜空間
「ただいま、サミュー」
「おかえりなさい」
ドアを開けて入ってきた背の高い耳の尖った男性は、私の目の前で娘と抱擁していた。彼は顔を上げると私を見て、驚いた顔をしていた。
「・・・・・・目が覚めたのか」
「攫っておいて、結構な言い草だな」
「すまない。内密に話がしたかったのだが、秘密をバラされかねないと思って、無謀な手段に出てしまった」
「我が国は、反逆罪は処罰に当たるんだが・・・・・・。まあ、いいだろう。話とは何だ? 今すぐ、国へ帰りたいのだが」
「まあ、待て。落ち着け。この村の時の流れはキース殿のいた場所と違って遅い。少しくらい話をしてから帰っても、問題ないだろう」
「時の流れが遅い? もしかして、ここは神の国なのか?」
「ハハッ・・・・・・。俺たちが神様に見えるって? それは結構なことだ」
村長だという男は、毛皮で出来た上着を脱ぐと、近くに置いてあった木の椅子に腰かけた。
「さて、どこから話したものか・・・・・・」
「お父さん、私、お茶を淹れてくるわ」
「ありがとう、サミュー」
少女が部屋から出て行くと、男は椅子に座り直し、こちらを真剣な表情で見つめていた。
「あの、村長さん?」
「エドガーだ」
「エドガー殿、この村の時の流れが遅いというのは本当ですか?」
「本当だ。この村は、森の一部ごと『亜空間』の中にある。何から話せばいいのか・・・・・・。昔、魔族という種族がいたのは知ってるか?」
「ええ。捕らえた魔女が、魔族の最後の生き残りだと、聞いています」
「私達は見ての通り魔族だ。約1000年前に近隣諸国を始めとする大規模な戦争に巻き込まれて絶滅したと言われている──昔、魔族は滅びかけた。戦争を望まない私達は森に隠れ住んでいたが、それすらも良く思わない連中がたくさんいてな。私達の魔術を恐れた国々が結託して、魔族が逃げ込んだ森全体へ火を放ったのだ。木々は燃え続け、1週間たったある日の夜、私達は逃げる決心したんだ」
「それが──この、ミランヌ村ですか?」
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