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友との再会
しばらくして道が通れるようになると、3時間ほどでカルム領へ到着した。私は森を抜けた先に城が見えると思っていたのだが、そこには何もなかった。
アーリヤ国の東に位置するカルム領は、自然が豊かで気候が豊かな土地だった。最近、事件が起きて私が不祥事を起こしたらしいのだが、私を廃嫡するどころか、新しくつくる国の国王にするという。不祥事を起こした息子を国王にするなんて正気の沙汰じゃない。というより、何で息子ということになっているんだ? 女性なのに・・・・・。
考え事をしていると、現場を見に行っていたユリウスが馬車へ戻って来て言った。
「陛下、ジーク様がご挨拶をしたいと言っております。一度、外へ出られますか?」
「ああ」
私は男性のフリをしなければならないのかと思い、低い声を出してみたが、逆にユリウスに笑われてしまった。
「陛下、無理に男性を演じる必要はございません。はじめは陛下の身を守るためについた嘘でしたが、今は側近のほとんどが、『女性』であることを知っています」
私は羞恥で顔を赤くなるのを感じながら、ユリウスの手を借りて馬車を降りた。城が建つはずの場所には、骨組みと基礎部分しか出来上がっていなかった。その骨組みの上に、肩まで髪を伸ばした茶色い髪の青年が立っている。
「魔術師のジーク・コックス様です」
「ああ」
「キース、やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
「キース様とは、乳兄妹なんですよ」
親しげな言葉遣いに私が戸惑っていると、ユリウスが近くに来て、こっそり教えてくれた。
「ああ」
「お前・・・・・・。『ああ』しか言ってないぞ? どうかしたのか?」
「それが、何も・・・・・・。思い出せないんだ」
「??」
「陛下は、どうやら事件より前のことは、何も覚えておられないようなのです」
彼の疑問に、側に来てユリウスが説明してくれた。
「いや・・・・・・。実は、事件の後の事もあまり覚えてないんだ」
「それは・・・・・・」
「すまない。昔のことは・・・・・・。何も思い出せないんだ。君のことも」
「良いんじゃないか。新しく国をつくるんだ。何も思い出す必要はないだろ?」
「そうか? ありがとう、ジーク様?」
「ほんとうっに、何も覚えてないんだな? その、ジーク様ってのやめろよ。気持ち悪いから」
「・・・・・・」
「ジークだ」
「え?」
「お前は、俺のことジークって、呼んでたぞ」
「ジーク?」
「何だ?」
「これからも、よろしくな」
「おう、その意気だ」
彼が拳を差し出したので、私も同じように拳を差し出した。すると、建国への誓いを立てるかのようにお互い拳をぶつけ合った。ぶつけ合ったら、意外と痛くてお互い顔を見合わせると、笑い合ったのだった。
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