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領主の館
その後、私達3人は領主の館へ向かった。街から少し離れた場所にある館は、屋敷と言うより宿屋のような造りで、馬車を降りて入り口から中へ入ると、ロビーの様な吹き抜けの玄関に驚いた。
「驚かれましたかな?」
「ええ・・・・・・。内装と外装で、ずいぶん印象が違うのですね」
出迎えてくれたカルム領の領主であるカルム伯爵は、愛想のいい少し太った男だった。頭に白いものが混じり始めているので、40代~50代ぐらいの年齢であることが伺える。
「この度のご決断、見事でございました。新しく物事を始めるにあたり、大変なことも多いでしょうが、私どもが誠意を持って全力でお支えしたいと思っております」
「ありがとうございます」
「えっと・・・・・・。キース様?」
カルム伯爵は、私の言葉を不審に思ったのか怪訝な顔をしていた。
「すまない、陛下は記憶を無くされてしまったみたいなんだ。どうやら、カルム伯爵のことも忘れてしまっているらしい」
「そんな?! 何てこと・・・・・・。おいたわしい」
「申し訳ありません。何も思い出せなくて・・・・・・」
出迎えてくれた領主と玄関先で立ち話をしていると、2階にある部屋のドアが、とつぜん勢いよく開いた。
「キース様!! ユリウス様に、ジーク様も!! お久しぶりです」
「彼女は、カルム領主の一人娘であるネモフィラ様です。私達4人は、幼なじみでもあり、学園でも同級生でした。陛下が女性であることも知っているので、身構えなくても大丈夫ですよ」
護衛騎士のユリウスが、気遣ったのか私の側へ来て耳打ちしてくれる。
「キース様、わたくが生み出した新しい技術で刺繍を完成させましたの。どうか、お部屋まで見に来てくださいませ」
「あ、ああ・・・・・・。すまない、ちょっと行ってくる」
「どうぞ、ごゆっくり」
2人は眉根を寄せて少し困った様な顔をしていたが、笑って送り出してくれた。
(私が話から抜けるのが、何か問題なのかしら? でも、何も分からないし・・・・・・)
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