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ネモフィラ嬢
彼女は私の手を取って、勢いよく階段を駆け上がると、部屋の中へ入り、出てきた時の勢いと同じくらいの勢いでドアを閉めた。その反動で壁に掛かった刺繍の絵が、額縁ごと幾つか壁から落ちたが、彼女は気にも留めずに、私の両手を掴むと言った。
「もしかして、アイリス様ですか?」
「まさか・・・・・・。あなたがジェイドなの?」
「はい!!」
私は茶色い髪を縦に巻いた細身の美女が、ジェイドだということに驚きつつも、なぜ私の存在に気がついたのか気になってしまった。
「どうして、気がついたの?」
「実は、俺・・・・・・。ついさっき、前世を思い出したんです」
「え?」
「それで、地の精霊ノーム様とさっきまで話していて・・・・・・。最後に、もうすぐアイリス様に会えるだろうって、ノーム様が言ってたから──今日、客人として家に来るだれかだろうと思ったんです。窓から外を眺めていたら、馬車から降りるキース様を見て、アイリス様だということに気がつきました」
「よく分かったわね」
「話している姿を見て、ピンときました。『推し』なら分かって当然だと思います」
「・・・・・・そう」
私は美女の中身がジェイドであることに違和感を感じながらも、何故かこちらの方が外見と中身が一致しているような気がしていた。
「もしかして、ジェイドもネモフィラ嬢の記憶がないの?」
「え? ありますよ。もしかしてアイリス様は、キース様の以前の記憶がないんですか?」
「え? ええ。色々あってね。今は、記憶喪失ということにしているの。キースとしての記憶がないからね」
私は、地の精霊ノームと話した内容の一部始終をジェイドに話して聞かせた。
「アイリス様。じゃなかった、キース様、それマジっすか」
「ええ」
「キース様は、前世での・・・・・・。カルム国での歴史を覚えていますか?」
「ええ。でも、歴史が苦手だったせいかは分からないけど、あまり思い出せないのよね。転生してからは特に・・・・・・。思い出そうとしても、頭に靄みたいなものがかかってるみたいな感じがして・・・・・・」
「俺もです。あの、キース様。残念なお知らせがあります」
「えっ? 何があったの?」
「俺の婚約者、今日ここにいるユリウス様とジーク様、どちらかから選ばなくてはならないんですよ」
「え″?」
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