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「そうだ。二度言わせるな。北に延びるエルスター橋を壊せ! 我々が逃げきるためだ。サンフォーレ軍の追撃を防ぐために、橋を落とすのだ。一刻も猶予はならん!」
クゼニュ公は、冷酷な表情で、そう命じた。
「しかし、殿下、民衆や、残された兵は…!?」
「民衆は…どうでもいい。退路を断たれた兵は、奮起し勝利するともいわれている。運命は自分で切り開くべきだ。」
クゼニュ公は、無情にもそう言い放った。
これが後世に語り継がれる「エルスター橋」の悲劇である。
まだ南部の主力部隊が交戦中にもかかわらず、北上へ避難が可能な北への主要通路のエルスター橋が完全に破壊された。
避難のために橋の上にいたものは川に流され、
橋の近くにいたものはパニックで川に落とされた。
2000人ほどの兵と民衆が、川に流され死んだ。
この結果、最重要拠点である首都防衛をまかされていたエリドール公国の最精鋭部隊は窮地に陥った。退路も補給路もいきなり断たれたのである。
逃げ惑う民衆は、混乱の中で、家族や友人と離れ離れになり、絶望の淵に突き落とされた。
「助けてください…! 息子を…息子を!」
母親は、混乱の中、息子と離れ離れになってしまった。
「お願いです! 誰か…助けて…」
老人は、力尽きて倒れ込み、絶望の淵へと沈んでいった。
「これは…これは何だ…? クゼニュ公は…?!」
人々は、混乱と恐怖の中で、自分たちの王が、自分たちを見捨てて逃亡したことを知った。
エリドールの民の心には、怒り、悲しみ、そして絶望が渦巻いた。
サンフォーレ皇帝レオンドゥスは、エリドールを崩壊へと導き、かつての楽園は、血と涙に染まった地獄へと変貌した。
そしてクゼニュ公の逃亡は、民衆の怒りと憎しみの対象として、 エリドールの民に永遠に記憶されることになるだろう。
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