第16話 首都陥落

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第16話 首都陥落

ー エリドール公国首都リプス ―  サンフォーレ軍の侵攻は、まるで嵐のようにエリドール公国を襲った。  波濤のように軍隊が国境を越え、大地を飲み込みエリドールの都市は次々と陥落していく。  かつては、緑豊かな田園風景が広がり、人々の笑い声が響いていた場所は、 焦土と化していった。燃え盛る炎は、夜空を赤く染め、死者の呻き声が風に乗って漂っていた。  エリドール公国、クゼニュ公は城の塔の上から、その惨状を目の当たりにした。彼は、もはや、国を維持することが不可能だと悟り、絶望が彼の心を締め付け始め、こうつぶやいた。 「ここは撤退しかないな。」 エリドール将軍ポトニャフが、焦った様子で現状を報告した。 「殿下、まだ防衛隊は完全に残っております。 わが母国、フロストヴァルドにて訓練を行った最精鋭のホワイトタイガー隊、ホワイトウルフ隊、ホワイトクロウ隊、ともに戦意は良好です!時間は稼げます。」 クゼニュ公は、ため息をつき、言葉を詰まらせた。 「いや、勝敗は既に決まった。頭が残ればいつでも再起はできる。 今は撤退しかない!」  宰相は、クゼニュ公の決断に驚きつつも、首都リプス陥落の被害を最小限にしようと画策した。 「北方で再度再起を図るか、それともフロストヴァルドへの亡命でしょうか。」 クゼニュ公は、静かに、しかし断固たる口調で、こう宣言した。 「わが国だけではもう戦うことは困難である。フロストバルドへの亡命しかない。」 ポトニャフ将軍が慌てて公の言葉を遮る。 「今から撤退の準備をいたします。」 「避難民をまず優先するために、防衛隊を結成し、避難路を確保いたします。」 「そんなものはいらん。」 ポトニャフ将軍は驚き、指示を仰いだ。 「それではどうするので。」 「我々が真っ先に逃亡するのだ。真っ先に自分を最優先にできないで、自分の身は守れん!」 クゼニュ公の決断は、臣下をも絶望の淵に突き落とすものだった。 「どういうことでしょうか、殿下。」 「私たちの逃亡が完了したら、エルスター橋を落とせ」 「殿下! 避難のための橋を壊すのですか?」 将軍は、クゼニュ公の命令に驚き、言葉を失った。
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