やまもりラヴァー!

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 ***  露香に一目惚れしたのは、俺の方だった。  昔から病気がちで体力がなく、運動部に入ることができなかった俺。そんな俺が高校の頃、友達に誘われて見たのが、レスリング部の練習試合だったのである。 『っしゃあ!』  俺は、レスリングのことなんか全然知らない。吉田沙保里選手の顔と名前が一致するくらいで、ルールとかマナーとかもほとんどわかっていない。  だからひょっとしたら、勝った時に派手にガッツポーズをするのはマナー違反なのかもしれなかった、でも。 ――かっこいい。  他校の自分より大きな少女を倒し、腕をかちあげて喜ぶ露香の姿。筋肉質な体を汗だくにして、顔を真っ赤にして、キラキラの笑顔を浮かべた彼女に俺は一目で魅了されてしまったのだった。  あんな風に本気になって何かに打ち込んだことが、自分にあっただろうか。  あんな風に本気で頑張って、大喜びしたことが自分にあっただろうか。  自分もあんな風に一生懸命になれるものを見つけたい、彼女のようになりたい――。きっと、最初は憧れに近い感情だったのだろう。  残念ながら女子レスリング部は、男子マネージャーの募集をしていなかった。それでも俺は一緒にいた友達からエースと名高い少女の名前を聞き出すと、足しげく体育館に通って彼女を応援するようになったのである。  露香は俺より、一つ年上だった。  最初は“素敵なかっこいいお姉さん”を心底応援したい、それだけで十分だと思っていた。ある日のことだ。 『さっさと倒れなさいよ、この筋肉女ー!マジで目障りなんだっつの!』 『は?』  体育館に来ていた少女数人が、露香に汚い野次を飛ばした。俺は固まってしまった。レスリング部の見学に来るファンは俺以外にも数人いたが、今まで見たことのない子達である。彼女は露香を見て、くすくすと底意地悪く笑っていた。  わけがわからない。目障り?露香が何をしたというのか?  野次が飛んでも気にすることなく練習を続けていた露香だったが、三人の少女たちの野次は止まらない。次第には。 『お前みたいなデカいブス女、みんな本当は嫌ってんのよ。気づかないとかマジばっかじゃないの!?』  私があなたを、嫌い。そう思うのは自由だ。  でも、みんなお前を嫌っている、という言い方はあまりにも卑怯である。主語を大きくして、相手を傷つけるために悪意ある言葉を選んでいるようにしか聞こえない。あるいは、自分を主語に置く勇気さえないのか。  イライラしていた俺は、ついに堪忍袋の緒が切れた。少女達の目の前に立ち塞がって、思わず言ってしまったのである。 『いい加減にしてください。あんたらの方が練習の邪魔だってわかりませんか?』  名札から、全員露香と同じ二年生なのはわかっていた。だから形だけ敬語を使った。
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