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『可哀想な人達ですね。一生懸命頑張ってる人がそんなに妬ましいですか。見ていて本当に滑稽で不愉快です。あんたらこそ消えてくれませんかね』
『は?誰よアンタ』
『誰だっていいでしょ。あんたらの野次が迷惑だって、それこそ“みんな”思ってると思うんですけど?』
『はー?事実じゃん。あの見た目も性格もブスな女みんなに嫌われてんだからさあ。それともアンタ、あいつのこと好きなわけ?』
また言いやがった。俺は売り言葉に買い言葉で、こめかみをひきつらせながら笑ってみせたのである。
『ええ、俺は空井先輩が大好きですけど何かぁ?あんなかっこよくて、一生懸命で、後輩の面倒も見て親切な人他にいません。あんたらより一億倍魅力的ですけども?』
そのあと。
からかわれるような言葉も罵倒もいろいろ言われた気がするけど全部無視した。彼女たちがヒートアプしてきたところでさすがに顧問が飛んできて彼女たちを追いだした。本当はもっと早く動いて欲しかったところだが。
と、そこで俺の肩を叩いた人物がいたのである。
『あ、あの……君、いつも身に来てくれる一年生だよね?ありがと、助けてくれて』
露香だった。彼女は顔を真っ赤にして俺に言ったのだった。
『そ、その、さっき大好きつったけどあれ……どういう、意味?』
『……あ』
今度は、俺が茹蛸になる番だった。
暫く自分達は互いに見つめ合ったまま、真っ赤な顔で硬直する羽目になったのである。
後に聞いた話。あの三人のリーダー格の少女が好きな男子が、露香のファンであったようなのだ。彼女はそれが気に食わなくて、露香を追い詰めてやろうと画策したらしい。なんともやり方が陰険で、惨めなものである。
みんなの前で告白してしまったようなもので、暫く俺は恥ずかしさから小さくなって過ごすことになったが――露香も、まんざらではない様子で嬉しかった。
なんとなく部活の後で話すようになって、彼女の教室にも時々遊びに行くようになって。それで、数か月過ぎたある日言われたのである。
『ねえ。繋ちゃんさ……あたしの彼氏になってくれるつもり、ない?……な、なんちゃって……あははは。め、迷惑かな……』
それは、彼女なりの精一杯のアピール。
俺が喜びで昇天しかけたのは言うまでもない。
体が大きくて力持ちで、いつもスポーツに一生懸命で。後輩たちにも親切で、準備や片付けもけして手を抜かない。デートに行けば遊園地の乗り物一つで子供みたいにはしゃいで、ごはんを食べるたび何でも山盛りにして美味しい美味しいと食べる。
そんな彼女を見ているだけで、俺は笑顔になれるのだ。
果たして俺は、彼女に何を返せるだろう。――同じ大学に進学してからも、ずっとそんなことを考えていたのだった。
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