あるチョコレート菓子

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 子供の頃に食べた、とっても甘いチョコレートのお菓子。一口か二口でサクッと食べきれるそのチョコレート菓子は、昔、母が買ってきたものを食べた日から私を虜にしたのである。 「……」  そして大人になった私の前に、あの日虜になったチョコレート菓子がある。  昔食べたものと変わらないパッケージで一つ一つ売られていた。  いつもなら近所のスーパーで買い物して帰るところを、あえて遠回りして、規模の大きなスーパーに立ち寄ったのが間違いだった。ふと、お菓子のコーナーに立ち寄ると、あの日虜になったチョコレート菓子が目に入ったのだ。 「……だめだ。このチョコは買っちゃいけない……」  随分前に食べたきりだけど、このチョコレート菓子のおいしさは今でも鮮明に思い出せる。とっても甘くて、いくらでも食べられるほどおいしいのだ。 ――――だからこそ、買ってはいけない。  買ってしまったら最後、このチョコレート菓子のことばかり考えて、私の食はチョコレート菓子ばかりになってしまう。  その日から、私は二度とこのチョコレート菓子を口にしないと決めたのだ。  強い意志を持ってここを立ち去ることにする。 「……」  ちらっ、と目を横に向けるとあのチョコレート菓子が視界に収まる。でもだめ。もう離れないといけない。 「……」  あーだめだめ。何回チラ見したって絶対買わない。 「……」  早く買い物して帰らないと。明日も仕事。さ、早く行こう。 「……」  ほら、いつまでもここにいないで。あと五秒。五秒数えたら絶対行く。チョコレート菓子を買わずに立ち去るのよ。さぁ、五、四……。 「……」
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