あるチョコレート菓子

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「先輩、おはようございま~す」 「……あ、おはよう……」  次の日、職場に行くと後輩ちゃんが元気よく私に話しかけた。 「あれ、どうしたんですか、先輩? 今日は元気ないですね」  後輩ちゃんは私の顔を見るなり、心配そうに声をかけてくれた。私のげっそりした様子をすぐさま感じ取ったようである。 「何かあったんですか?」 「えっと……大したことじゃないんだけどね……」  私はカバンから一つのチョコレート菓子を取り出して、後輩ちゃんに見せた。私が大好きな、あのチョコレート菓子である。 「実は、チョコレートをたくさん衝動買いしちゃってね……」  昨日の晩、風呂上がりにあのチョコレート菓子を一口食べた瞬間、甘みが口いっぱいに広がり、私を幸せな気持ちにしてくれた。チョコレート菓子を食べ終えても満足できなかった私は、気がつくとネット通販で同じチョコを大量に注文していた。  そして今朝、玄関に大好きなチョコレート菓子が、かなり大きめの段ボール箱二つ分も届いていたのだ。合計で20kgくらい注文しているみたいで、段ボール箱の中を見ると、全部あのチョコレート菓子がぎっしり詰まっていた。 「今、チョコレートがたくさんあり過ぎて困ってて……。これ、よかったらもらってくれない?」 「わあー! ありがとうございます! これおいしいですよね!」  手に持っていたチョコレート菓子を渡すと、後輩ちゃんは受け取ってすぐに私の前でパクッと食べ終えてしまった。 「先輩、このチョコレート好きですよね~。毎回先輩から貰ってて、なんか申し訳ないなーって思うくらいですよ」 「……あれ? そうだっけ?」 「いつも分けてくれるじゃないですか~。確か一週間前もこのチョコレートくれましたよね?」 「え?」  一週間前? それはつまり、私は一週間前にもあのチョコレート菓子を買ってて、同じように後輩ちゃんにプレゼントしていた……?   嘘でしょ……?  二度と買わないって、随分前に決意していたと思っていたのに、たった一週間しか経っていないなんて……。
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