9 24時を過ぎたら

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9 24時を過ぎたら

 ハルから新居に招かれたのは、同居の話が出てから3週間以上経った頃だった。少しリフォームする部分もあって業者が出入りしてるから、と言われて、わたしはおとなしく待機していた。
  結局、最初に一緒に住もうと言われて混乱して「わかったけど確定ではないから」と言ってしまってから、それが確定に変わったような決定的な話はしていない。でもなんとなくそういう流れになっていて、ハルも確認してこないしわたしも特にその話題は出していない。  雰囲気的にはハルの方ではもう確定事項になっていて、わたしだけがまだ少し腰が引けている感じか。  でももう、今さら後戻りはできない気がする。  子ども時代の記憶あるあるで、大人になってから訪れた場所が記憶より全然小さかった、狭かった、ということがよくあるけど、ハルの祖父母が暮らしていた家は記憶と同じようにしっかり大きかった。 「ごめんね、結構待たせちゃったね」  築40年ほどになる5LDKの洋風住宅は、軒並み近年建て替えられた周辺の家々に囲まれていても劣ることなく堂々とした佇まいでそこにあった。  建築家だったハルの祖父がこだわって建てた家で、ツーバイフォーという工法で作られたと言っていた。頑丈で、耐震性や耐火性に優れていて、80年くらいは住めるのだとか。 「外観のリフォームは10年くらい前にひと通りやってるから、割と綺麗でしょ」  言われなければ築40年とは全く思えないほどで、でもそれは外観だけの話ではなかった。家の中に案内されて、改めて驚嘆する。 「壁紙は全部張り替えたんだけど、さすがにフローリングまでは無理だった。でも塗装はやってもらったから、まぁ我慢して」  十分だ。本当に、十分すぎるくらい。 「暗室をさ、ちゃんと作りたくて。普通の部屋に水道引くのにちょっと時間かかっちゃった。ごめんね」  そう説明されながら案内されたのは、玄関を上がってすぐのところにあるふたつのドアのうちのひとつ。  ドアから中を覗くと、おそらく窓だったところがぴっちりと板で塞がれていて、そのすぐ下には真新しい流し台が設置されている。反対側の壁際には大きな作業台があって、その両脇にまだ何も収納されていない戸棚やラック類がいくつも並んでいた。 「ハル、今でも自分で現像してるんだ」 「うん。趣味程度だけどね。仕事とは全く別で」  高校生の時、写真部で撮った写真をよく自分で焼いていたのを覚えている。  ハルの自宅の庭に4畳半くらいありそうな物置があって、その中を暗室にして現像をしていた。  時々モデルを頼まれていたわたしは、興味本位で現像作業も見せてもらったことがある。  ここで暮らすことになったらこういうハルの世界に少しずつ触れながら過ごすのかと思うと、照れくささとワクワクの混ざったような不思議な感覚を覚えた。 「ねえ、ちょっと(かなた)に見せたいとこあるんだけど。来て」  自分が見つけた宝物を見せてくれた時みたいな顔。本当に心からこの状況を楽しんでいるのがわかる。  ここリビングね、ここは物置にするね、ここ洗面所とお風呂ね、と簡単に説明されながらもどんどんスルーして、階段を上がる。  2階に上がったところの踊り場に面して、ドアが3つあった。 「ここが、私の寝室。で、こっちが奏の寝室ね」  自分に宛てがわれた方の部屋のドアを開けてみたら、ベッドや洋服ダンスがもう設置してあってびっくりした。 「ここ、おばあちゃんの部屋だったんだけど、家具も綺麗だったからそのまま使って。これね、桐タンス壊れてなかったから削り直しだけしてもらったの。あと、ベッドのマットレスは新しいのに替えたから」  本当に丁寧に暮らしていたのだろうな、と想像できる。ある程度リフォーム済みだとは言っても、痛んでいるところがひとつもなくて、気になるところがない。 「ありがとう……なんか、こんな、色々してもらっちゃって、わたし何もしてないよ」 「奏に何かして欲しいなんて言ってないじゃん」 「そうだけど」  わたしの卑屈な発言なんて大してハルに届いていない。相変わらず目をキラキラさせて、宝物を披露してくれている。 「でね、見せたいの、ここじゃなくて」  本当に不思議な感じ。姿かたちは大人なのに、表情や雰囲気が小さい頃のままで、そのギャップがなんというか、すごく愛しいと思ってしまった。 「こっち来て」  小さく手招きされて、言われるがままに後に続く。ついて行くと、部屋の奥にドアのない別空間への入り口があった。 「ここね、ウォークインクローゼットだったとこに、録音ブース入れたの。見て」  8畳の寝室の横に、約2畳くらいの広さの納戸があって、その中にぴったり収まるくらいの本格的なブースが入っている。 「パパの学生時代の友達がアマチュアミュージシャンやってて、その人が最近オーディオスタジオ付きの家建てるのでパパに内装依頼してきてね。その時に、それまで使ってた防音ブースがいらなくなるからってパパの貸し倉庫に保管してあったの、まだあったから譲ってもらったの」  納戸スペースに入って、がっちりと閉まっていた防音扉をハルが開けた。それから入り口にあった照明のスイッチを入れる。明るくなったブース内は新品のようにきれいだった。 「内側の材質がなんか楽器演奏用のやつだし古かったから、それだけ業者に頼んで宅録に向いてるやつに替えてもらったけど、奏は収録だからこれでいいんだよね?」  これでいいも何も、こんなの本格的過ぎて。  わたしが今まで使っていたブースはDIYの趣味レベルで、せいぜいオーディションに提出するボイスサンプルを録るくらいしかできなかった。でもこのブースなら、リモートでラジオ収録までできてしまいそう。それくらいのプロ仕様と言ってもいいくらいのブースだ。 「このサイズなら奏の部屋にあった機材全部入るでしょ」  次から次へと、まるで魔法のように希望の環境をプレゼントされて、これは何か、おとぎ話に出てくるような……そうだ、シンデレラ。舞踏会に行きたくても何も持っていなくて困っていたら、魔法使いが杖1本で何から何まで用意してくれた、あの話。ドレス、靴、馬車。あっという間にシンデレラはお姫様みたいになって、無事に舞踏会に行けた。  あの話、最後はどうなっていたのだっけ。確か、魔法使いに言われたタイムリミットを過ぎそうになって慌てて帰る時に靴を落として、それを手掛かりに自分を探してくれた王子様とハッピーエンド、だったか。  昔話によくある、タダで希望を叶えてもらうと後からしっぺ返しが来て不幸になるという、タダほど怖いものはない系の話ではなかった。でもそれはきっと、シンデレラが素直で純粋で綺麗な心の持ち主だったから。  わたしはこの展開に、正直、びびっている。それも、かなり。 「どう? 使えそう?」  何かの罠か。これから始まる罰ストーリーの序章か。こんな恐ろしい幸運を素直に受け取ってもいいのか、本当に大丈夫なのか。  どちらにしろ、こんなにひねくれて卑屈なわたしに、ハッピーエンドなんて待っているわけがないな、と思う。 「奏? ねー、奏。どうしたの? 何か間違ってた?」 「え、あ。あの、違う、大丈夫。間違ってない」  そうだ。わたしはこれから罰を受けなきゃいけないのだった。だって、悪いことをしたのだから。いつかその罪を認めて謝罪しなきゃいけないと思いつつ、のらりくらりと言い訳しながら機会を逃し、結局、その機会を永遠に失った。(あき)の事故によって、永遠に。 「じゃあ、何か、気に入らなかった?」  どうしよう。このままこの環境を受け入れて、その後、どうなる? 「んーん、違う。けど、ちょっと、デキすぎてない?」 「え、なにが? どの辺が?」 「いや、全部だよ。全て。何もかも。あの、かかった費用、わたし出すから」  せめて、ほんの少しでもハルにかかった負担をフラットに近づけたいのだけど。 「そんなこと望んでないよ。そんなことされたら意味ないじゃん」 「でも」  予想はしていたけど、ハルはそんな提案は受け入れるつもりがなさそうだ。 「……私が勝手にしたいようにしちゃったんだけど、ダメだったかな」 「ダメじゃないのが怖いんだって。っていうか、なんでそこまでしてくれちゃうの?」 「そんなの、理由がないとダメ? してあげたいから、じゃダメかな」 「わたし、そんなことまでしてもらっても何も返せないよ」  わたしがいつまでも意地を張ってゴネているので、ハルは少し呆れたのか小さくため息をついた。 「何か返して欲しくてやってるんじゃないよ。逆だよ」 「逆?」 「そうだよ。今までいっぱい色々してもらって、そのお返し、みたいな」  ハルの言いたいことがいまいち何のことなのかピンとこない。 「今まで? わたし、何かしたっけ?」 「したじゃん。してくれたよいっぱい。小さい頃からずっと、いっぱい、助けてくれたし、守ってくれた」  なるほど。そんなふうに思っていたのか。わたしからしてみれば、恩を売ったりしたつもりもなくて、それこそこちらが勝手にやっていただけなのだけど。 「奏がいてくれて、私、本当に楽しかったんだよ」 「そんな、何もしてないよ。何も、できてない。わたしなんか」  これからわたしに罰が(くだ)って、それがハルにも影響したらどうしよう、と思う。わたしひとりが受ければいい罰にハルを巻き込んだらどうしよう。自分だけならなんとかするけど、ハルは、関係ないから。 「……その癖、まだ治ってないんだね」 「え?」 「その、わたしなんか、ってやつ」 「……癖? そう、かな」  思わぬことを指摘されて、混乱する。 「いつも言うじゃん、それ」 「えー、そんなに言ってる?」 「うん。言ってる。昔から。すぐ、わたしなんか、って言う。カナママの口癖だよね、それ。紘太(こうた)もそうだった。カナママ、いつも謙遜して『ウチの子なんか、カナタなんか、コウタなんか』って言ってたもん」  昔からわたしの両親の事をカナパパ、カナママと呼ぶハルが、鋭いところを突いてきた。  そうなのだ。  わたしの父は、亭主関白がかっこいいと思っている昔ながらの頑固オヤジ。気が強い方ではないからあからさまに命令したりはしないけど、黙ってじっと待って妻に尽くしてもらえるとご満悦、という人。  母は、決して控えめではないけれど、そんな父をたてて、大事なことは全部父優先で、自分や子どもたちは一歩でも二歩でも後ろに下がって何でも後回し、というタイプ。だから、わたしと弟は色々と厳しく制限されて育ってきて、しかも何かあるごとに「カナタなんか、コウタなんか」と卑下されてきた。  だから、わたしは自分に自信がない。  暁やハルみたいな自分の世界を持った自由人に憧れても、自分ではマネできない。自分が率先して良い思いをすることに、とてつもなく抵抗がある。  母が「自己犠牲上等!」と言わんばかりに、自分を誰よりも何よりも一番後回しにして「ああ大変、もう大変」と駆けずり回って、それを「わたしはこれだけ大変だった」と武勇伝のように嬉しそうに語るのを、嫌というほど聞かされてきた。だから、大変な思いをしないで簡単に楽をすることに罪悪感を感じる。自分がまわりの人より楽をすること、楽しむこと、幸せになることに、異様に罪悪感を感じてしまう。それで卑屈になって、わたしなんか……といろんなことを諦めて我慢している状態に、母と同じくちゃんとできている、という安心感を持ってしまう。  フラストレーションを感じないかと言えば、そういうわけではない。不満はあるし、もっとこうしたい、という気持ちもある。でも、それを通さないことに歪んだ美学のようなものを持ってしまっているのかも知れない。  頭で考えれば、それが普通なことではないし、ひねくれていて自分で自分の首を絞めているだけなこともよくわかる。でも、感覚的な部分で、それは今更簡単に塗り替えることが出来ないほど自分の性格の根底に根付いてしまっていた。 「奏はさ、親に『あれしちゃだめ、これしちゃだめ』って言われてた十代の時からあんまり変わってないよね。周りのことばっかり優先して、自分はなんでも我慢して、いっつも誰かのために生きてる。まぁそんなに簡単には打ち破れるものじゃないとは思うけど」  柔軟で軽やかなパパと天然で穏やかなママに育てられたハルは、やっぱりそのままその雰囲気を受け継いでいるように見えて、心底羨ましく思う。そのハルにそんな事を言われてしまったら、返す言葉が何もない。本当にそのとおりだった。 「カナママとカナパパは、彼らなりの信念を持って奏と紘太を育てて来たんだと思うよ。ただ、それが、成長した奏たちにとっては、結果的にはちょっと不本意だったところもあった……じゃあ、その部分を自分たちの力で変えてしまうのは、パパとママに対する裏切りだと思う?」  口調によっては尋問のようになってしまいそうな問いかけも、ハルの穏やかな声音では、まるで真逆の、牧師さんが教導する時のような優しい色を(まと)う。  ハル、いつの間にこんな話術を体得したのだろう。 「しつけのせいで、親の育て方のせいで、自分はこれが苦手な人間になった。それなら、今からその苦手を克服していけばいいだけの話だよ。奏は自分で幸せになっていいんだよ。親は親、奏は奏。自分の力で学んで選択して生きていっていい。それに、暁はいなくなっちゃったけど、奏は生きてる……ここで生きてる。求めたり、主張したりすることは、悪いことじゃないよ。ちゃんと、欲しいものを求めて、言いたい事を言って、自分の意思で生きていかないと」  30年以上もずっと踏み固められてきたわたしの中の歪んだ価値観は、ちょっとやそっとの()き返しではそう簡単に(ほぐ)れる様子はない。それでも、それを承知で踏み込んできてくれるハルに、わたしはほんの僅かな期待をしてしまう。  もしかしたら、今のこの大人になったハルが、ひび割れるほどガチガチになってしまった荒れ地に水を運んできてくれるのかも知れない、と。 「ね、奏。私、奏の思ってること、知りたい。奏がしたいこと、奏が欲しいもの、いっぱい知りたい」  ハルのまっすぐな視線が、刺さる。刺さって、絡め取られて、がんじがらめにされそう。 「奏の本当の声を聞きたいよ」  わたしの本当の声なんて、そんなもの聞かせたら全てが終わるかもしれない。全てを失くすかもしれない。 「今すぐじゃなくてもいいから、少しずつでもいいから、色々話して」  ハルのことも傷つけて、迷惑をかけるかもしれない。  それでもわたしは、前に進みたい。  父や母がイメージしている幻想の幸せではなく、本当に自分が実感できる幸せを、できれば感じてみたい。 「わたし、めんどくさいよ」 「うん。知ってる」  ニコッと笑うハルは、昔の面影のまま。 「……迷惑かけるかも」 「覚悟の上です」  でも時々、見たことのない、知らない表情を見せる。  大人になったハル。 「嫌な思いさせたらごめん」 「させてないうちから謝らない」 「……はい」  いつの間にかまた話の流れがハルのペースになっていて、こうなってしまったらわたしはたぶん、逆らえない。 「……じゃあ、よろしくお願いします」 「こちらこそ」  半ば、流されたような形になったけど、でもこの道を選んだのはわたし。わたしが自分で、ハルと暮らすという結論を選んだ。  それは当然ハルの人生にも踏み込むことになるだろうし、同時に、自分の人生にもガッツリと向き合わなければいけなくなる。きっと。  それはすごく恐ろしくて、ひとりではとてもではないけど乗り越えられる気がしない。でも、ハルが一緒にいてくれるのなら、わたしはチャレンジしてみたいと思ってしまった。  もし失敗したとしても、ひとりではないのだとわかっているから。 「じゃあ、下行ってキッチンとかリビングとかもっかいよく見てよ」  仕切り直すみたいにして、ハルが場の流れを変えた。  そうだった。まだやらなきゃいけないこと山積みだった。 「うん。あ、そういえば、もう1コの部屋は?」 「あー、隣の? そこは……使わない予定」 「空けとくの?」 「うん。今はね」  もしかしたら後からやっぱり誰かが入るのかも、という邪推が浮かぶ。 「そっか」 「下、行こ」 「うん」  不安は完全には取り払えないけど、でも、もうここで暮らすことに決めた。後のことは後で考えよう。そうしないとわたしみたいなタイプは絶対に前に進めない。  進むと決めたのだ。 「だいたい片付いたんだけど、細かいとこは奏の意見も聞きながらやろうと思って」  1階の共有スペースの説明を受ける。  生活感がもろに出る箇所を見ると、本当にここでハルと暮らしていくのだな、という実感がじわじわと湧いてくる。 「LDKはもう色々そのまま。10年前に外装リフォームした時に、キッチンとお風呂とトイレの水回りだけは新しくしてあったから、新品ってほどではないけどまぁまだ綺麗でしょ」  まだ綺麗、だなんてとんでもない。 「十分だよ。今のマンション、あそこもう建って20年くらい経ってるから、あれよりよっぽど綺麗」 「何か希望とかあったらちゃんと言ってよ」 「うん、そうする」      (あき)の母親から宣告された退出期限まで、あと約2週間。仕事をしながらなので、引越し準備は実は思ったより進んでいない。荷造りが進まないのを見かねたハルがかなり手伝ってくれているけど、暁の持ち物もあるので、持ち出すか置いて出るかの判断がなかなかつかなくて難しい。 「あなたが持って行きたいと思ったものはなんでも持って行っていいのよ」  元義母の相変わらずの言い回しが腹立たしい。そんなことを言っても、いくつもの大型家具は、次の入居者が使うからそのままにしておけと持ち出し禁止令がすでに出ている。  暁は普段から極力物を持たないようにしていたので、わたしに選択権が与えられた暁の私物は、小さな本棚2つ分の書籍とほんの少しの衣類、それから、一般的な小型家電くらいだ。  暁があの家で暮らしていた痕跡がたったそれだけだなんて。  ひとつも捨てたくない。手放したくない。 「いいよ、全部持って行こうよ。大丈夫、部屋いっぱい空いてるから」  ハルがそう言ってくれたので、わたしはその言葉に甘えるつもりだ。  幸い、わたしの寝室にしてくれた部屋は8畳あるから、自分の私物と暁のものくらい置けるだろう。1階にも機材倉庫にすると言っていた部屋がある。もしわたしの部屋に入り切らなければ、そこにも少し置かせてもらおう。  それにしても、ハルのこの強引とも思えるような主導力、一体いつからこんな風になったのだろう。基本的な性格は変わっていないはずなのに、ハルの勢いに逆らえなくて、いちいち調子が狂う。  わたしが弱くなった? そんなはずはないのだけど。  そして恐ろしいことに、なぜか嫌な気がしない。  嫌な気がしないことを言い訳にして、わたしは少しこのハルの手に引っ張られてみたいと思ってしまった。 「あーもう、楽しみ! 早く引っ越してきてよ」 「うん、頑張る。けど」 「手伝うから」 「うん」  シンデレラって、ドレスを着せてもらった時、どんな気持ちだったんだろう。プレッシャーはなかったのかな。怖くはなかったのかな。魔法が解けた時のことを考えたら、そんな一時的な幸福いらない、とは思わなかったのかな。  そこまで考えて、自分のマイナス思考の根強さにほとほと嫌気がさす。  ハルのプラス思考に便乗させてもらうのだから。もう進むと決めたのだから。  そろそろ、引っ越し業者に連絡をしよう。
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