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「佐倉さんに帰ってほしくないって思ってるのは俺だよ」
私は何と言って返せばよいかわからず、窺うように桜介を見た。桜介は眉間に皺を寄せながら告げる。
「こんなに楽しいのは久しぶりなんだ。無理してパリピな連中と付き合ってみたけど、全然楽しくなかった。あの人たちが話す内容の半分もいまだに理解できない。女子はやたらめったらグイグイ来て怖いし」
「馴染んでいるように見えたけどな」
「ぼろを出さないように必死だったんだよ。でももう限界! もう元に戻りたい。佐倉さんと一緒がいい」
「おうちゃん……」
私は込み上げる涙をこらえ、唇を噛む。
パリピになるよう唆したつもりはないし、桜介が極端に捉えて暴走した感もなくはないが、苦しい思いをさせた原因は私にある。コスプレならまだしも、始終偽りの姿でいなければならない環境は、さぞストレスがたまったことだろう。
そしてなにより、共にいたいと望んでくれることに感動していた。
「わかった。週明けから一緒に登校しよう。駅で待ち合わせして」
「うん」
桜介は顔を輝かせ、大きく頷いた。
「……私もさ、最初はコンパとか出てみたんだけど、声をかけてくる男の人がみんな怖くってさ。挫折しちゃったんだ。おうちゃんと一緒にいたかったけど、おうちゃんってば凄くカッコよくなっちゃったから声をかけづらくって」
「そうなの?!」
「もう相手にされないかなーと思って、遠くから眺めるにとどめておいたというか」
私はもじもじと両手を握り合わせ、俯いた。
「それって……」
ふいに気配が近づき顔を上げれば、目の前に桜介の顔が迫っていた。
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