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駅を出て、桜介の暮らす街へ着いた。
花曇りにもかかわらず、私の身体は発熱したように熱い。カーディガンの袖をたくし上げ、纏わりつくロング丈のプリーツスカートを片手で引き上げた。
10mほど先にコンビニの看板を見つけ、財布を取り出して小銭を数える。自動ドアをすり抜けてコピー機の前に立つと、ノートを開き原稿台のガラスに押し付けた。桜介の友人が準備しているに違いないし、盛大に字も行も乱れている代物だが、この際どうでもいい。
逸る気持ちのまま来てしまったが、口実は欲しかった。
なんといっても相手は病人だ。門前払いを食らう可能性もある。それならそれで、私が訪れたという痕跡を残したい。
とにかく桜介と対峙しなければ。
コピー機の規則的な機械音を聞いていると、恐怖がじわりとせり上ってきた。プリントされた紙を取る指先が震えている。
私はもつれる指で紙をクリアファイルに挟み、それを片手に持ったままコンビニを出た。
作業を着た中年の男性が二人、大声で話している。
私はその前を通り、角を曲がった。
配管会社のトタン壁と小さな緑地に挟まれた細い路地の突き当りに、コンクリートの階段が見える。
私は目地に草の生えた石畳を踏みしめた。
そうして、さび付いた手すりをいぶかしげに見るいつかの横顔を思い出す。
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