46人が本棚に入れています
本棚に追加
キッチンスペースから戻った桜介が、テーブルの向かいに座った。しかし、身体を横に向けてこちらを見ない。
横顔を見せたまま、桜介はしゃべり出した。
「やんなるよ。新学期が始まった途端これだもんな。単位どうしよう」
「まだ取り返せる範囲じゃないかな。まだ始まっていない講義もあるし」
私は手に持っていたクリアファイルをテーブルに置く。
「一教科だけだからあんまり役に立たないかもだけど。一応必修だし……と思って」
「ありがとう」
桜介はクリアファイルを手に取り、中を覗いた。
「佐倉さんの字だね」
「そりゃあ……私が書いたやつのコピーだから」
「……」
沈黙が訪れ、桜介は唐突に目を押さえた。
「ちょっと、コンタクト外していいかな。急いで入れたから変な風になっちゃってる」
「どうぞ」
洗面所に向かっていく桜介の後ろ姿を見ながら、ちょっと太ったかな、と思う。ゆったりとした服を着てはいるが身が詰まっているように感じた。胃腸炎で療養していたはずなのに却って太るなんてことがあるのだろうかと首を傾げる。
しかしまあ、驚くほど普通だ。
私は肩から力を抜き、背後にあるベッドに靠れた。
予想が外れて桜介は私を拒否しなかった。それどころか部屋の中に招き入れてさえくれた。
こんなことなら躊躇せず、さっさと連絡を取ればよかった。
安堵すると同時にどっと疲れが襲ってきて私は長い息を吐く。
そして、改めて部屋を見回した。
多少物はあるが、部屋はきれいに掃除され整頓されていた。家具も同じダークブラウンの色で統一され、白い壁紙には貼り物が一切ない。
最初のコメントを投稿しよう!