本編

16/24
前へ
/24ページ
次へ
 好きなアニメのキャラクターやフィギュアで溢れかえっていたかつての部屋とはだいぶ違う。  そのことに一抹の寂しさを感じながら、私は窓の外に目を移す。  レースのカーテン越しに、どんよりとした空が見えた。  やがて戻ってきた桜介は、眼鏡をかけていた。高校当時に愛用していたものだ。心なしか顔が赤い。額を拭いながら、熱いね、と言う。 「熱が出てきたのかな? 寝た方がいいんじゃない?」  腰を浮かせる私を手で制し、桜介は首を振る。 「それはない。もうほぼ通常に戻ってるから。大事を取って休んでるだけ」 「エアコンの温度を下げれば? 私は寒くないし」 「いい。佐倉さんが風邪を引いたら困る」 「じゃあ、上着を脱いだら?」  桜介は無言になり、うろうろと彷徨った。私は困惑し、ただ桜介の動向を見守る。  やがて、桜介は動きを止めると、決心したように上着のボタンを外し始めた。ぶつぶつと「ああ、こんなはずじゃなかったのに……」と呟いている。  桜介は、やけくそといった勢いでコーチジャケットを脱ぎ去った。すかさずパンツにも手をかけ、一気に下ろす。  あまりの狼藉に顔を覆いそうになったが、ワイドパンツの下から現れたものが目に入り、固まった。  慣れ親しんだ紺色の布地のそれは、高校の体操着だった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加