本編

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 私はラグに足を投げ出しソファーの座面に靠れ、桜介は床に両肘をついてうつ伏せる。 「や、やばい……興奮しすぎて酸欠」 「喉乾いた……熱い」  私はのろのろと上半身を起こし、今更ながら桜介を気遣った。 「ごめん、病み上がりなのに無理言って。飲み物用意してくるよ」 「だ、大丈夫。自分でできるよ。佐倉さんの分も用意するから、そこにいて」  桜介はよろよろと立ち上がり、そばのチェアに掴まる。私もテーブルに掴まりながら重い身体を持ち上げた。 「ううん。今日はこれで帰るよ。これ以上付き合わせたら風邪がぶり返しちゃう。お見舞いに来たはずなのに疲れさせて申し訳ない。ゆっくり療養して」 「えっ、まだいいじゃん」 「暗くなる前に帰るよ。久しぶりにおうちゃんと話せて楽しかった。また遊ぼうね。新シリーズ履修しておくよ」  私は心地よい疲れを味わいながら扉へと向かう。自分がまだ桜介の友人ポジションであることに満足し、告白して玉砕するという当初の目的など頭の中から消し飛んでいた。  しかし、桜介が背後からドタドタと駆け寄ってくる。 「ちょっと待ってよ、佐倉さん、待って。読むならここで読めばいいじゃん。Wi-Fi完備だよ、ここ」 「私のアパートも使えるよ」 「帰らないで」  桜介は私の腕を掴み振り向かせると、そのまま肩を掴み壁に押し付けた。  唖然とする私の両側の壁に音を鳴らして手をつき、至近距離で見下ろす。  所謂、壁をドンと叩くアレ、壁ドンである。 「ファンサかな? ありがとう」 「ファンサじゃないよ。だって、佐倉さんの推しは御堂でしょ」 「だって、今、おうちゃんは御堂でしょ?」
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