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しかしながら、密かにリアルの充実を諦められずにいた桜介と私は、大学進学を機にイメチェンを決意する。
イケてる昨今の若者の生態を徹底的に研究し、バイトで貯めた資金で衣服や化粧、装飾品を購入。異性好みの外見になるようお互いをプロデュースした。
それが見事大当たりし、私と桜介は華々しい大学デビューを果たしたのである。
しかし、あれよあれよという間に水をあけられた。
外見を盛っただけの私と違い、桜介は元々整った容姿を持っていた上に努力を重ね、誰もが振り向くイケメンに成長してしまった。
野暮ったい眼鏡を鬱陶しい前髪で覆い猫背で廊下の端を歩いていた少年は、いまやモデルばりの青年に変貌を遂げた。
ベージュカラーの髪にスパイラルパーマをかけ長身に流行りの服を纏い、キャンパスを颯爽と歩く。ビリヤードやダーツなどの遊びを楽しむラグジュアリーなサークルに入り、夜な夜な繁華街を闊歩しているらしい。
かつて同士だった男は、私の劣等感を擽るだけの存在になってしまった。
風に煽られてくしゃくしゃになった髪を手櫛でかき集め、ゴムで一つに結んだ。久しぶりに巻いた髪もこれでは台無しだ。
思わず出そうになったため息を、水筒の水で流し込む。
見た目はいくらかマシになったものの人見知りのする性格は早々直るものではなく、私の大学での交友関係は地味なものだ。派手な人種が集うサークルには怖くて近寄れず、結局はバイトと大学との往復である。研究室には所属しているが、メンバーは飾り気のない、悪く言えばダサい面々でインドア派が多数。しかし、落ち着く。
気が付けば、何も変わっちゃいない。
所詮、自分はこちら側の人間なのだと思い知った。
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