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「俺も知らねえ。千田って誰も家に入れたがらないんだよな」
サークルに登録されているんじゃないかと誰かが言えば、開示されていないと誰かが答えた。チャラく見えたが、個人情報の管理はしっかりされている組織のようだ。
「来週からは出てこられるってさ」
ええ、週末のダーツ会、桜介くん出場しないんだぁ、つまんないぃ
甘えた女子の声を聞きながら、私は記憶を手繰り寄せていた。
桜介のアパートを私は知っている。
私の住まいから一駅離れた場所にあったはず。焼き鳥屋の角を曲がって、少し行ったところに配管工事の会社があって、その横の細い路地を行って階段を上がるのだ。
鮮明に覚えているのは、引っ越しを手伝う際に何度も往復したからだ。
私は肩に掛けたトートバックの持ち手を握りしめる。
「のりちゃん、どうしたの? 怖い顔して」
隣に座る友人が顔を覗き込んだ。
「あの、あのさ、今日研究室行かなくっていいかな?」
「別にいいんじゃない? たまには。教授もほとんど顔出さないんだし。先輩に言っとくよ。何? お腹でも痛いの?」
「この勢いに乗らなきゃ、二度とチャンスは来ない気がするんだよね」
「あ、便秘? そうだね、便意が来た時に行った方がいいよ」
「いつまでもこんなもの抱えていてもしょうがないもんね」
「そうだよ。出すものは出さないと! お肌も荒れちゃうしね」
「よっしゃ! 気合い入れて行ってくる!」
私はすっくと立ち上がった。友人は頷きながら小さく手を振る。
「頑張ってね。あんまり力みすぎたら切れちゃうからほどほどにね」
「わかった。どっさり出してすっきりしてくるよ!」
私はガッツポーズで応えると、教室の外へ駆け出した。
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