3人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言って彼女はおもむろにスマートフォンをコートのポケットから取り出すと、手慣れた手つきでディスプレイに指を走らせた。
スピーカーモードらしく、呼び出し音が聞こえている。
「もしもし? 私よ? いまちょっといいかしら」
『おおう、奏っち、もう東京についたぁ? 早くしないと事務所閉めて帰っちゃうよ?』
「まだ出張先よ? あと二時間後くらいの便で帰るわ。それより、目の前にとっても懐かしい人がいるの。誰だか分かるかしら。スピーカーだからこのまま話して?」
『懐かしい人? いやー、想像がつきませんなぁ。はろー? どなたでありますかぁ』
この可愛らしい声は、彼女に間違いない。
思わず笑みが出た。
「もしかして、ワッピ? 僕、宮本だよ」
『おおおっ? 歩先輩っ? え? 奏っちと密会しているのですかっ? こーれは奥さまに報告せねば』
「いやいや、たったいま偶然ここで会ったんだよ。でも、どうしてキミたちが連絡を取り合ってるの? ワッピ、大学時代は彼女がどこへ行ったかまったく知らないって言ってたじゃない」
『あら? 奥さまはなんにも話してないのですかぁ?』
見ると、奏さんがクスクスと笑っている。
最初のコメントを投稿しよう!