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恋は一瞬だった。
まさに『天高く』と呼ぶのに相応しい抜けるような空が、生徒会室前の窓いっぱいに広がっている。
パイプ椅子に腰掛けたままノックの音のほうへ目をやると、開いた扉の先でその透き通った声が響いた。
「あなた、文化委員長ね? 文化祭の展示希望はここでいいの?」
生徒会室にはいま僕しかいない。
やや逆光ぎみの柔らかなコントラスト。
ハッと息を飲む。
胸まである美しい黒髪をゆっくりと後ろへ払った彼女の姿は、まるで絵画のよう。
青色の上履きからすれば、彼女は僕と同じ一年生だ。
この高校に入学して半年、同じ学年にこんな綺麗な子が居たなんて知らなかった。
思わず視線を逸らした。
どうしたんだ。
なぜか耳の奥のリズムが勝手に駆け足を始めている。
僕は絶対に惚れっぽい性格じゃない。
それどころか、いままで誰かを恋焦がれたことすらない。
そんな感覚は安易で軽薄だって、ずっとずっと軽蔑してきたっていうのに。
なん組の子だろう。
廊下でまったく顔を合わせないほど教室が離れているんだろうか。それとも――。
「ねぇ、聞こえてる?」
「え? あ、えっと……、うん」
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