エピローグ  再会

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 隣を歩いていた学生服姿の息子が、あまりに親し気に呼ばれた父の名に驚いて、思わず足を止めている。  今日は、この陰鬱な冬雨がしとしとと降る中、春から専門学校へ通いたいという高校三年生の息子の希望により、その説明会に同伴してここへと来た。  ちょうど雨も上がり、車を停めた立体駐車場へと畳んだ傘を揺らしながら息子と並んで歩いていたとき、小さな水たまりが点々とする石畳の遊歩道で、その聞き覚えのある清楚な声が私を呼び止めたのだ。  ゆっくりと視線を向けると、そこには美しく長い黒髪を雨上がりの風に揺らす、グレーのコートをまとった女性の姿があった。  凜とした佇まい、経年をまったく感じさせない若々しい姿の彼女と、品のいい臙脂色のマフラーが一瞬で私を当時へと呼び返した。 「やっぱり歩くんね? 私よ? 野元奏」  放心する私の腕を、息子が心配そうに小さく突いた。 「父さん?」 「え? あ、ああ」  我に返るのに、そう時間はかからなかった。  小さく咳払いをして、コートの襟を直す。 「や、やぁ、ずいぶん久しぶりだね。高校卒業以来? よく僕だって分かったね」
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