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「ええ。だって、あなた全然変わってないもの。そちらは息子さん? 奥さんの若いころにそっくりね」
「そうかな。結婚前の痩せてたころのあいつには似てるかもね。ほら、挨拶は?」
先程は私を気づかせた息子が、今度は私に促されて小さく頭を下げた。
「キミはまったく変わらないね。高校時代とまったく同じ」
「そうかしら、嬉しいわ。あなたもあのときのまま。とっても素敵よ?」
「あはは、ありがと。ここへは仕事? なんの仕事しているの?」
「そうね。強いて言うなら物書きかしら。企画事務所を経営しているの。イベントやドラマ制作の企画をしたり、ときには脚本を書いたりしているわ。他愛ない仕事よ」
「へぇ、大したもんだ。僕は物書きの仕事は諦めちゃったからね。地元を離れてこの街の公務員になって、それからずっと事務屋だよ」
彼女がチラリと腕時計に目をやった。
ずいぶん懐かしくて、もっといろいろなことを尋ねてみたいが、あまり引き止めると迷惑だろう。「あ、忙しいよね。また今度ゆっくり――」
「ねぇ、歩くん、ちょっと電話していいかしら。せっかくあなたに会ったから」
「え?」
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