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そして私は、柔らかな笑みと共に、その約束の言葉を彼女へと向けた。
「ずいぶんいろんなものが変わってしまったけど、僕は……、ずっと忘れずに居られたと思う。信じる心も、夢見る気持ちも……」
その瞬間、陽光の向こうから届いた柔らかな風が彼女の髪をふわりとさせた。
私の言葉を受け取って、少しだけ瞳を大きくした彼女。
そして、何かを言いたげにわずかに震えたその唇はついに声を帯びることなく、それからゆっくりと満面の笑みの一部となった。
「ありがとう……。嬉しいわ」
「そうだ。あの歌のカセットテープがまだ残ってるから、データにして今度送るよ。よかったら聴いて」
「そう? 江上くんはもう残ってないって言ってたけど、あなたは持っていたのね。楽しみにしているわ」
彼女に届くことがなかった、あの歌。
時が流れ、かつては手から手へ渡されていたメロディーも、いまは無味な電子データとして容易に届けられるようになった。
あれから三十余年、とうにセピア色になったあのころの私の想いをいま受け取って、彼女はどう感じるだろうか。
再び、彼女が腕時計へと目をやる。
「そろそろ時間」
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