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「そうか。足止めしてごめん。じゃぁ、また今度」
「ええ。会えて嬉しかったわ。じゃ、また」
そう言って、ゆっくりとその一歩を踏み出した彼女は息子の横を通り過ぎながら、「お母さんによろしくね」と小さく手を挙げた。
息子が会釈する。
私は振り返らなかった。
息子だけが振り返り、遠ざかっていく彼女の後ろ姿を追っていた。
雨上がりの都市公園。
遊歩道にできた小さな水たまりには、晴れやかに澄み渡る青空が映えている。
彼女の髪をふわりとさせた風が再び届き、その水たまりに柔らかなさざ波を立てた。
心地よい、まるで小春を思わせる風。
彼女の後ろ姿に目をやったまま、息子が私に問う。
「綺麗な人だね。父さんの友だち?」
「ああ。高校のときの同級生だよ。まったく変わってない」
「あっ、もしかして、母さんがリビングに飾ってる写真の……」
「そうだ。父さんと母さんの間に写ってる人だよ。母さんの……、いや、父さんと母さんの親友だ」
「親友? でも、ずいぶん会ってなかったんだよね?」
「会ってなくても親友さ。親友っていうのはそういうもんだ」
「へぇ」
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