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「そうじゃないわ。他の連中と相部屋になるのがイヤなの。面積は狭くても構わないわ」
「そうか。じゃあ、クイズ研究会とか軽音楽同好会とかが使う特別棟の――」
「音を立てるうるさい部活の隣もイヤ」
さらにぐっと彼女の顔が近くなる。
思わず下を向いた。
「えーっと、その……、うん、分かった。できる限り希望に沿うようにするからね」
ずいぶん泳いでしまった目を無理に上げて、思い切り笑顔を作る。
たぶん、すごい顔。
そんな自分でもよく分からない僕の顔が面白かったのか、彼女は一瞬だけ横を向いてクスリと笑った。
とてもクールで綺麗なのに、その仕草はすごく可愛い。
すると次の瞬間、その素敵な笑顔がすっと消えて、眉根を寄せた半眼がじとりと僕へ向いた。
「ひっ?」
思わずのけ反る。
そしてそれから彼女はじわりと一歩踏み出して、そのしなやかな右手の人差し指をつーっと僕の胸へと近づけた。
トンッ。
小さな音を立てて、ネームプレートに突き立てられた彼女の指。
「できる限りじゃ……、ダメだから」
長く美しい黒髪がはらりと落ちて、その口角がほんの少し上がった。
吸い込まれそうな瞳。
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