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その日は現地解散で、僕は美沙と二人で帰った。10月一杯で美沙は退職する。
そこから、結婚式の準備に入る。美沙が中心になってすると言う。帰りに美沙を家に連れて行こうとすると彼女は用事があると言って新宿で別れた。
母の機嫌は悪い。顔合わせから一度も美沙が僕の家に来ないからだ。
僕が家に入るなり、母は「美沙さんは?」と訊いて来た。
「用事があるんだって」
「おかしくない?婚約者の母親が家に呼んでいるのに、ずっと無視している。私は姑になるのよ。嫁の分際でそれはないんじゃないの?」
「嫁、姑なんてさ、旧民法の遺物でしょ?お母さんが保守的になってどうするの?」
「なんか変だわ。あの子。気になって仕方がないの」
「失礼だな。いい子だよ。今日もこんなお弁当作って来てくれた」と僕が言って、スマホで撮った美沙お手製のお弁当の写真を見せると母は黙った。
会社での美沙は、定時で帰ってしまうのでノー残業デーの水曜日と土日だけデートをしていた。後はラインのやり取りと電話だ。母は、高尾山に行った日以来、なにも僕と美沙の付き合いに口を挟んで来なくなった。
その沈黙が返って不気味で電話で僕は美沙にお願いした。
「一度はさ、いい嫁アピールをお願い」
「お母様、私のことを誤解なさっている。最初からそうよ。私、気が弱いでしょう?正直言って怖いの」
「僕の母は、本当は正義の味方みたいな人なんだけど……やっぱり、自分のことになると保守的になっちゃうのかな。申し訳ない。1回でいいから相手してやってよ。同居するわけでもないんだし」
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