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僕が32歳の誕生日を迎えた日の5月1日。
新人研修が終わった新入社員の辞令が下りた。僕の班にも3年ぶりに新しい社員が入ってきた。
美術大学で彫塑を学んだ女の子。22歳。3DCADも勿論できる。工学の基礎知識もある。とにかく大人しい子で、肩までの髪を括っていた。正面から他人の顔を見るのが苦手なようだった。
色が白い子で黒ぶちメガネをかけていた。名前は滝川真白だ。早生まれだと言っていた。
……10歳下の新入社員が入ってきた。僕は自分が「オジサン」になったと自覚した。
毎年、この時期になると男性社員は、新入りの女子社員の評価を始める。
男性社員は、みんな理系のオタクみたいな野郎どもで言う事だけは一丁前だ。
「やっぱ、正社員の女の子は可愛げ無いっすよね」
「派遣の子の方が女に見えるというか……華やかで可愛い子が多い。派遣は顔で採用しているのかなぁ。あはは……」
「3年しか居ないから、急いで手を出さないとな」
母が聞いたら怒髪天になるような差別、区別発言をボロボロ吐き出す。
僕は、黙っている。
モデル制作班は男所帯だ。聞こえているだろうに、滝川さんは聞こえないふりをしている。
滝川さんは殆ど話さない。表情も硬い。話すのは質問だけだ。彼女は勘がいいし、実際の作業も丁寧だ。
仕事が終わると直ぐ帰ってしまう。帰りは派遣の女の子たちと一緒に帰っている。
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