1、 5月 社員の女の子

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 滝川さんは、2週間もすると笑い顔を見せるようになった。いつもニコニコしている。楽しそうにモデルを制作している。  気のせいかな……時々、僕は彼女の視線を感じている。そちらを向くと彼女は慌てて下を向く。  相手は10歳年下だ。彼女を見ると、その若さに僕はたじろいでしまう。 こうやって、これからずっと一緒の部署で働いていくんだ。 気まずくなっても困る。このまま同僚として一緒に作業して流れに任せようと思った。  5月の最後の金曜。就業時間の後、滝川さんの歓迎会を開いた。 居酒屋で、彼女は一切お酒を呑まなかった。ニコニコはしていた。もっぱら、歳が近い社員と仕事の話をしていた。  僕の方には社交辞令だけ振ってきた。 「不慣れな私が足を引っ張っていますね。申し訳ありません。班長」 そう言って律儀に頭を下げる。 「滝川には俺が手取り足取り全部教えてやる」と一歩間違えばセクハラにも取れる発言を若い飯田が言いながら横入りする。  僕には、セクハラ発言もどきが出来るほどの若さも大らかさも無い。 滝川さんはチラッと横目で飯田の顔を見て黙殺していた。 滝川さんは、浮ついたところが全然ない人だった。隙が無い。その隙の無さは「可愛げが無い」ともイコールなようで、班内での仕事以外の彼女の評価は低かった。  飯田くんなどは「女に見えない」とまで陰で言っていた。
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