2、 7月 派遣の女の子

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2、 7月 派遣の女の子

 松原美沙は「注目の派遣女子№1」だった。  年齢こそ、27歳と少し大人だが、容姿は飛びぬけて良かった。細かいところに気が付いて、しなくてもいいお茶出しまでする気立てのいい子と言われていた。そんな噂は、僕の耳にも入っていた。彼女は下のフロアーの設計1課で働いていた。    松原さんは、6月頃から度々、業務中に滝川さんの席にやってきていた。噂通り本当に綺麗で清楚な人だった。長い髪に整った顔、均整の取れた体つきは制服の上からも良く分かった。松原さんが来るとモデル班の野郎どももソワソワする。  設計とモデルは、元受けと下請けみたいな関係だ。松原さんが此処に来てもおかしくない。おかしくはないが、滝川さんの席に行くのは仕事ではない。雑談か……?あまり、気分は良くない。  注意した方がいいだろうか……。少し僕は躊躇していた。女性の扱いは難しい。男ならサラッと「油売ってんじゃない」と言えるところが言えない。  言い方が少しきつかったら豹変して「パワハラ認定」を受けかねない。女性の方がエキセントリックだ。  僕はモヤモヤしながら、女性二人が業務中にお喋りしているのをチラチラと見ていた。ほんの5分だが、ほぼ毎日。自分の部下だから滝川さんには、それとなく言った。そうしたら滝川さんは余計に下を向いて黙ってしまった。  6月の下旬だった。 僕が片付けて帰宅しようとしたら、階段の踊り場に松原さんが一人でいた。 彼女は、真っ直ぐに僕の方を見て怒ったような表情をして近づいてきた。 「真白に注意したんですってね。真白は悪くないです。私が悪いんです。私が、真白の所に押しかけているんです。だって、彼女……言いにくいです。此処では言いにくい……」  松原さんは、涙を浮かべていた。僕がじっとその顔を見ていると涙を溢しながら「他の場所で話しませんか?」と言った。  会社から一駅先の駅のコーヒーショップで二人きりで話した。
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