2、 7月 派遣の女の子

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 確かさっき、僕のこと好きって言ったよな。こんなに綺麗な女性(ひと)が? かなりドキドキした。前の彼女と別れたのは29の時、今度こそ幸せな家庭に辿り着くかも知れないと僕は思った。  彼女が僕を「健太」と呼び、僕が彼女を「美沙」と呼ぶ関係になるまでに2週間かからなかった。お互いに大人だ。それも適齢期だ。 美沙は、本当に優しい良い子だった。少し心配になるのは直ぐ「私が悪いの」と言うところだ。  いくら人が良くても、いつも自分の方が悪いと引き下がっていたら、この世の中で生きていけない。 「もっと強くならなきゃ」と僕は美沙を励ました。  美沙は自分に自信が無くて「健太が居ないとダメなの」と甘えてきた。そんなところも可愛くて守ってあげなきゃと思い込んだ。  二人で話した日以来、美沙は滝川さんの席に来なくなった。  僕も滝川さんとは距離を置いた。そんなに嫌われているならと近づけなくなった。滝川さんは前と何一つ変わらない。ただ、滝川さんの視線を感じることは無くなった。  「早く健太と一緒に住みたい」と美沙は言うようになった。 「同棲?」と僕がワザとらしく訊くと美沙は頬を膨らませて「ちが~う」と甘えて言う。 「意地悪ね」と言って軽く拗ねる。その動作の一つ一つが可愛くて仕方がない。  顎の前で両手を祈るように合わせて「健太を一生支えていきたいの」と言う美沙は子供のようだった。
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