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一応、婚約の体裁が整ったので、すでに注文してあったH.Wのダイヤの指輪を美沙に贈った。彼女がおねだりしてきた指輪は300万円だった。僕の貯金で買った。
指輪を選んだ時、彼女は「高いよ」って言いながら遠慮がちにソレを指さした。300万の指輪。これは母には言えなかった。
次の日、彼女は左手の薬指にそれを嵌めていてくれた。会社の人に婚約したことを美沙も僕もオープンにした。
同じ班の飯田くんが呆れていた。
「H.Wの指輪?庶民の買い物じゃないっすよ」
美沙は、女子社員に囲まれて指輪を見せていた。少し恥ずかしそうに嬉しそうに……滝川さんは、気が付くと美沙の側に寄らなくなっていた。仲が良かったはずなのに、美沙からはそう聞いているのに、何かあったのか少し気になった。滝川さんは僕とは前から仕事の話しかしない。
デートの時、僕は美沙に訊いた。
「滝川さんと喧嘩したの?」
美沙は、言いにくそうにモジモジしながら教えてくれた。
「滝川さんって仕事が出来るじゃないですか……って言うか、身分が違うって感じかな。派遣の子たちに上から目線なんですよ。私なんか年上でも負けちゃう。キャリア様だから……」
少し、困った感じで言う美沙が子供っぽくて、僕は納得した。
滝川さんは、そういう人だったのか……。
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