あと一回弾きたい！

　最近、俺の自宅リビングに電子ピアノが増えた。

　それは俺の勤務先、ハヤマ　ミュージカルインストゥルメンツの電子ピアノ。

　しかも最新モデルだ。

　近い将来、俺の妻になる恋人、音羽(おとわ)　奏(かな)のために購入したもの。

　ピアノ講師でもあり、週末はラウンジピアニストの仕事も熟(こな)す彼女。

　彼女の自宅にはグランドピアノがあり、俺のマンションに搬入する事も考えたが、部屋の階数と間取りの関係で断念。

　それに、彼女の母も自宅でピアノを教えている事もあり、二人で話し合った結果、電子ピアノを買う事にした。

　結婚してからは、俺のマンションで新婚生活を送るため、彼女の商売道具でもある鍵盤楽器は必須だ。

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「うわぁ……これだ！　ハヤマの最新モデルの電子ピアノ……！」

　週末、泊りがけで俺の自宅に来た奏がリビングに入るなり、顔を破顔させながら電子ピアノの元へ直行する。

「怜(れい)さん、本当にありがとう……！」

(何か俺の立場がなさげ……なのか？)

　ソファーに腰掛けた俺をそっちのけで、彼女が新しい鍵盤楽器を発見した事で、微苦笑しつつ少し複雑な気持ちになってしまったが、恋人が喜ぶ姿を見られるだけでも嬉しい。

　コンパクトサイズながらも、あらゆる鍵盤楽器の音色を始め、管弦打楽器や和楽器、効果音のような音も含めて、千種類以上の音色が搭載されている。

　譜面立ての中央は大きめの液晶画面が付いていて、楽譜は百曲分内蔵されているが、Wi-Fiでネットに繋げれば、専用サイトからスコアを購入してダウンロードでき、画面に映し出される。

　もちろん、本来のピアノとしての性能でいえば、限りなくハヤマのコンサートグランドピアノのタッチに近付け、リアルさを追求している。

　機能を挙げたらキリがないが、電子楽器は常に進化しているという事だ。