薬師ヴォルフィの理想と現実・その5

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 ヴォルフィにはリリスに訊ねたいことや伝えたいことが本当はたくさんある。  僕が初めての相手だったことをリリスさんが後悔しているんじゃないかと、ずっと気になっています。でも僕はあなたのことをずっといいなと思っていて、恋人になりたかったんです。できる限り大切にしますから、サキュバスの飢えがなくても僕を選んでくれませんか。  ただ、リリスといざ恋人になれたとしても、人狼であることを受け入れてもらえないのなら、結局は終わりだ。人狼だから難なく充分な精気を提供できているのに、ヴォルフィは自分の血を疎んでいる。  最後の恋人との別れはヴォルフィの心に傷を残したままだが、騙されたと言った彼女の気持ちもわからない訳ではなかった。  犬獣人ディーノと蛇獣人ナータンは、人間と動物が入り混じった嵌合体(キメラ)なので、一目で獣人だとわかる。ヴォルフィは変身(メタモルフォーゼ)型で、普通の人間にしか見えないから、人狼だったという落差がより大きなショックを与えたことは想像に難くない。  ヴォルフィが気長な計画を変更したのは、リリスの体調が急激に悪化したためのやむを得ない判断である。そして、彼女が精気を得なければ生きていけないのも事実だ。ただ、リリスの体調が安定してきた今も、嫌われてしまうことを恐れて、ヴォルフィは秘密を明かせないままでいる。リリスを大切に想っていることが真実であるとはいえ、人狼であることを伏せたまま身体を重ね続けていることで、ヴォルフィは純粋な女の子を騙して搾取しているような気持ちになっていた。
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