薬師ヴォルフィの理想と現実・その5

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 ある日、リリスから「ヴォルフィさん。何か困っていることはありませんか?」と問われた。「あなたに人狼であることを伝える勇気がなくて困っています」と喉まで出かかったものの、結局ヴォルフィは言葉を発することができなかった。「私にできることは、そんなに多くないですけど……」と消え入るような声で付け足されてしまい、ヴォルフィの胸は詰まる。できることが多くない、だって? 週に一度来てくれることが楽しみで仕方なくて、一緒にいられることが嬉しくてたまらなくて、ヴォルフィはリリスの存在そのものにとても救われているというのに。  苦しまぎれで頼んだシャツの修繕に、ヴォルフィはとても感動した。生地は丁寧にかけつぎがされて、擦り切れていた部分は新品のように綺麗になっていた。リリスの肌のように艶やかな白の貝ボタンが、彼女の髪と同じ金色の糸で留められ、やわらかな光を放っている。ヴォルフィがとりわけ気に入ったのは、胸ポケットへ施された美しいWの刺繍だ。リリスの瞳と同じ澄んだ空のような青い糸で、ステレラの花の意匠もあしらわれている。ヴォルフィはシャツを纏うたびにリリスのことを想い、側にいてもらっているようで嬉しくなった。
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