薬師ヴォルフィの理想と現実・その6

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薬師ヴォルフィの理想と現実・その6

 祭前で街行く人々が少し浮足立っている火曜。ディーノから依頼された注文はとんでもなかった。 「ヴォルフィ、すまん」 「解毒剤は日持ちしないから常備してないし、一度に少ししか作れないって表に書いたよね」 「ヴォルフィ、すまん」 「ディーノに謝ってほしいんじゃなくて、無理だって言ってるんだよ」 「それは俺も上司に言った。だが、俺に伝えられたのも今日で、薬師ギルドに連絡を取っても、祭の前だから誰もつかまらなかった」  ヴォルフィがディーノから相談されている人狼が関わっているという事件。警邏隊内で箝口令を敷いているにもかかわらず、なぜか「犯人は人狼だ」と一般人の間でも噂され始めている。 「婦女暴行の方はおそらく人間の犯行だと俺は思ってる。『犯人は人狼だ』とわざと噂を広めて、人狼を装うことで、捜査を攪乱しようとしているんだろう。厄介なことに、噂が大きくなったせいで、人狼から入手した薬物を使って店を襲ったり金品を奪ったりする模倣犯も出始めているんだ。この祭で人がたくさん集まる場所で薬物を使われたら、被害が膨大な数になる。だから、万一に備えて、解毒剤を用意しろという命令が出された」  普段だったら十日はかかる量を三日で作れというのだ。ディーノの言うことはわかるが、ヴォルフィは一人しかいない。量産には限界がある。それに。
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