薬師ヴォルフィの理想と現実・その6

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 リリスが帰った後、ヴォルフィは作業に戻ったが、なかなか集中できない。仕事なんだから余計なことは考えるな、と自分を叱咤した後、ヴォルフィは明後日が満月であることを思い出した。満月が近くなると、どうしても慎重さと集中力が失われるし、衝動的に動きたくなってしまう。少し休もうと思った時に、再びドアベルが鳴った。 「……ナータンさん! どうなさったんですか?」  来客者は薬剤原料を卸してくれている蛇獣人のナータンだった。店にやってきたのは初めてで、ヴォルフィは少し驚いた。 「これを、お届けに参りました」  ヴォルフィは差し出された大きな布袋の中身を急いで検める。良質な解毒剤の原料だ。これだけあれば、ディーノに頼まれた量を作ることができる。 「昔からの友人に声を掛けたら、譲ってもらえました。いい原料が手に入りましたら、ヴォルフィさんへ真っ先にお知らせしますと、約束しましたからね」 「……ありがとうございます」 「あと、よろしければお召し上がりください。作業中は寝食を忘れがちだとおっしゃっていたので、妻に作ってもらいました」 「本当によくしていただいて、ありがとうございます」 「こちらこそ、ヴォルフィさんにはいつもよくしていただいていますから」
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