薬師ヴォルフィの理想と現実・その7

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 どうして今頃こんなことを思い出すのだろうと、ヴォルフィは苦笑する。最後の恋人はヴォルフィの心の表面にわかりやすい傷を残した存在だが、最初の恋人はヴォルフィの心の奥深いところに刺さった小さな棘のような存在だった。疲れると普段は蓋をしている悲しい記憶が浮かんできてしまう。  ヴォルフィには彼女の行動の意味がわからなかったし、人の気持ちは変えられないから、それ以上考えることをしなかった。考えてもやりきれない気持ちが強まるだけだと思っていたから。だが今、視点が変わったからか、以前は見えなかったものが見えた気がした。  彼女が手を握ってくれたその日に、もしかするともっと前に、キスしちゃえばよかったんじゃないか?  ヴォルフィは彼女のことを大切に想っていて、だからこそずっと待っていた訳で、悪いことは一つもしていない。ただ、タイミングを見誤ってしまったのだろう。恋は理不尽なもので、上手くいくか否かは、人柄が善良かどうかでは決まらない。おそらく最初の恋人は、勇気を出して誘ってもヴォルフィが手を出してこないので、見切りをつけたのだ。
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