薬師ヴォルフィの理想と現実・その7

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 ヴォルフィは今、最初の恋人を失った時と状況が似ているように感じている。リリスから誘われ、やむを得ないとはいえ断った。こんな好機はおそらく二度と訪れない。それどころか、リリスはそのまま離れていきそうな気がする。普段自分から動かない人間は、勇気を出して上手くいかなかったら、すぐに諦めてしまうから。  ヴォルフィはどうしても悲観的に考えてしまう。リリスとの縁なんて、リリスが偶然ヴォルフィの店に皮膚薬を買いに来て、リリスが偶然サキュバスで、リリスが襲いたくなった時に近くにいたのがヴォルフィだったから続いてきただけで、リリスに来る気がなくなったらおしまいなんだ、と。誘いを断った時のリリスの目。あれは人狼だと知ってヴォルフィから去っていった最後の恋人の目と同じだった。もう自分からは来る気がない目。  ヴォルフィのところへ来なくなったら、リリスはどうなってしまうのだろう。サキュバスなのだから、男から精気を得られないと、彼女は生きていけない。一週間経ったので、リリスはそろそろ飢え始めているはずだ。来ないということは、ヴォルフィ以外の男と寝てもおかしくないのではないか。  外を見ると日はすっかり沈んでいる。いろいろ考えている間にかなり時間が経ってしまった。いつもならリリスが来ていてもおかしくない時間になっている。やっぱり来ないんだ。
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