薬師ヴォルフィの理想と現実・その7

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 中に入り、奥へ進むと、愛おしい女性の金髪が見えた。向かい側には匂いの主である伊達男が座り、笑みを浮かべて話をしている。整った顔立ちで物腰はやわらかいが、人のことを人とは思っていない目。そんな風にヴォルフィは感じた。  いけすかない。お前は星の数ほどいる女性の誰かを引っ掛けて一晩楽しめればいいと思っているのかもしれないが、僕にとってリリスさんは世界でたった一人の、替えがきかない大切な存在なんだ。絶対に絶対に渡さない。  ヴォルフィがそう思いながら睨みつけると、目が合った伊達男は怯えた表情を浮かべた。どれだけ睨みを利かせているのだ、この狼。睡眠が足りないと悲観的になり、つい、攻撃的な行動をとりがちになる。本当に過度な労働は悪である。 「リリスさん、僕との約束が先でしょう?」  精気の補給以外で初めてふれたリリスの肩は、少し震えていた。
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