薬師ヴォルフィの理想と現実・その8

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薬師ヴォルフィの理想と現実・その8

 リリスを自分の店に連れ込んだヴォルフィは自暴自棄(ヤケクソ)だった。いいや、もう、どうなったって。嫌われて終わりなら終わりで仕方がない。どっちみち、何もしなければこのまま終わるんだから、みっともなくてもあがいてやる。 「綺麗な服を着て、初めて会った男と寝ようとするなんて、リリスさんは誰でも構わないんでしょう? それなら、これまで通り、僕でもいいじゃないですか」  思わずこう口走ってしまった時、ヴォルフィは強烈な違和感を覚えた。感情が暴走して抑えられない。  ヴォルフィは着衣のまま後背位に及んだ。合意を得たとはいえ一方的に欲望をぶつけていることに罪悪感を抱き、勝手にしているのにいつもよりも乱れて感じているリリスに征服欲を覚えた。  これまで丁寧に大切に抱いてきたつもりだったけど、もっと激しい方がよかったのかな、サキュバスだし。足りなかったのかな、サキュバスだし。もっとしていいなら、全然するんだけど。むしろもっとしたいんだけど! そんな風にヴォルフィは思い、そのままリリスを抱えて寝室へ連れ込んだ。 「リリスさん、僕だけじゃ駄目ですか……?」  明らかにおかしい。秘めていた想いを口にしたい衝動が身体の奥から込み上げてくる。  この感覚は以前にも経験したことがある。最後の恋人に去られた時と同じだ。変身を止められない。  ああ、そうだ。今夜は満月な上に、ステレラの薬を飲んでいないじゃないか。どうしてこう、僕は肝心な時にうっかりしているんだ! 「いいから逃げて! これ以上嫌な思いをさせたくないから! もう、抑えきれな……」
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