薬師ヴォルフィの理想と現実・その8

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 ヴォルフィは愛する女性の顔を甘噛みすることにずっと憧れていた。狼の典型的な愛情表現だ。狼の姿で行為に至ることはないと思っていたので、心の奥底に押し込めて忘れようとしていたひそかな願望。  押しが弱く身体の線も細めのヴォルフィは、人狼の女子達から全く相手にされなかった。彼女達はわかりやすく強い男が好きなのだ。他の種族にとって狼の鋭い牙と爪は恐怖の対象だし、特に人間からは忌み嫌われている。  ヴォルフィ自身は人間の倫理観が自分と最も近いように感じたので、正体を明かさず人間として暮らそうと決めた。安定した生活のために、憧れなんて忘れてしまおう。そう思っていたのだが。  いいと許可してくれたのだから、してみよう。リリスの顔は小さいし、肌もやわらかいから、本当に優しくヴォルフィは噛んだ。可愛くて可愛くて食べちゃいたい、なんて、人間も言うではないか。きっとそれだとヴォルフィは思う。歯を離した後のリリスは幸せそうな表情を浮かべていた。リリスがヴォルフィの頭を優しく撫でてくれたので、気持ちが伝わったような気がして、ヴォルフィは非常に嬉しくなった。
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