サキュバスリリスとヴォルフィの店

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 貧血を改善する薬には効果があり、翌日リリスの身体はとても軽かった。効果はその次の日まで続いた。 「リリスちゃん、今日はずいぶん顔色がいいわね。何かいいことでもあった?」 「普通の人は毎日こんなに楽なのかと、健康のありがたみを噛み締めています」 「リリスちゃん? あなたまだ十八歳よね?」  今日の終業後、絶対に薬を買いに行こうとリリスは心に決めた。薬を買うだけで数年来の問題が解決するなら、安いものである。 「みなさんヴォルフィさんの薬局を教えてくださってありがとうございました。塗り薬のおかげで手の荒れは綺麗に治りましたし、貧血薬も今日の帰りに処方してもらおうと思っています」 「よかったわね」 「また何かあったら聞いてね」 「最近不審な事件がたくさん起きているみたいだから、リリスちゃんも気をつけてね」 「薬局へ向かう道はちょっと暗いものね」 「不審な事件、ですか?」  リリスが訊ねると、みなさんはこくりと頷いた。 「納屋を壊されたり、家畜が襲われたり、畑が奇妙な形の足跡で踏み荒らされたりしていたそうよ」 「女性が襲われた事件も何件かあると聞いたわ」 「獣人の仕業じゃないかって、もっぱらの評判よ」 「なるべく明るい道を通るようにします」  リリスは終業後すぐ、足早にヴォルフィの店へ向かった。早く身体を楽にしたいし、夜道に気をつけてというみなさんの忠告に従おうとしたからだと、リリスは思っていた。一番の理由は、単純にヴォルフィに会いたかったからだと、この時のリリスはまだ気づいていなかった。自分の気持ちなのにまるでわかっていない。そういうことはある。
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