サキュバスリリスへの処方箋

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サキュバスリリスへの処方箋

 リリスが薬局の扉を開けると、ヴォルフィは一瞬目を見開き、すぐに目を細めて微笑んだ。 「いらっしゃいませ、リリスさん」  笑顔で名前を呼ばれ、リリスはどきりとした。ヴォルフィが口にすると、ただの名前さえ、甘く優しく響く。 「この間はありがとうございました。塗り薬のおかげで手はかなり治りました。今日は貧血薬を処方していただこうと思って来たんです」  リリスが手を見せながら言うと、ヴォルフィは嬉しそうな声で返す。 「よかったです。薬をきちんと塗ってくださったんですね。手は毎日使うから治りにくいんです。貧血薬も効いているならしばらく続けていただきましょう」  ヴォルフィは店の奥へ入り、紙袋を持って戻ってきた。五日分の処方で会計をしてもらったところ、予想していたよりも貧血薬が高価だったので、リリスは思わず声を上げる。 「えっ……」 「ああ、ちょっと高いですよね。申し訳ないです。その分効果はありますし、体調が改善されたら減薬していきますから」 「いえ、そうではなくて。試供品でいただいた分もお支払いします」  リリスはヴォルフィにかなり損をさせていたことに気づいたのだ。試供品としてもらった薬は、計算すると塗り薬一つと同じくらいの価格になった。
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