薬師ヴォルフィの理想と現実・その9

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「きもち、よかった……せいき、おいしい……」 「……僕も」 「ヴォルフィ、ほんとうはもっとゆっくりが、よかった……?」 「んー……そこは、何回もすればいいかな……」  宣言通り、ヴォルフィはその後も遠慮なくリリスを数回貪り、大変満足した。 「ヴォルフィ……」 「ん……何?」 「ヴォルフィ、わたしがサキュバスで……よかったね……たぶんふつうのおんなのこは……おおかみがまんぞくできるまで……からだ、もたないよ……」 「確かに」  幸せそうに寝落ちてしまったリリスの頭をそっと撫でながら、ヴォルフィは考える。人生はちっとも理想通りにはならない。でも、理想をはるかに飛び越えた、とびきり素敵な現実がやってきた。ディーノの言っていた通り、自分は運がよかったな、と。  幸せな気持ちを噛み締めつつ、ヴォルフィはリリスにそっとくちづける。愛おしい恋人を後ろから大切に包み込むように抱き、彼女の小さな手を自分の指に絡めるように丁寧に握りしめ、自らも眠りに就いた。  ヴォルフィの人生は、小さな面倒に巻き込まれがちではあるものの、運に恵まれている。彼が誠実に行動した結果が、奇妙な縁でつながっているところもあるのだが、本人は全く気づいていない。そういうことはある。
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