サキュバスリリスへの処方箋

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 リリスは五日間きちんと薬を飲み続けた。体調を気にしなくていいと作業に集中できる。奥様方にレースの仕上がりを褒められたし、簡単な刺繍レースの作業も受け持たせてもらえることになった。今後も修練を重ねていけば、国内で指折りの刺繍レース職人になることも夢ではないと言われ、リリスの気持ちは高揚する。これまで引け目を感じながら家族に養ってもらっていたリリスにとって、初めての明確な自信であったし、自分の力だけで生きていけるという実感は大いなる喜びだった。  体調が非常によく、職場でも褒められたことをリリスが告げると、ヴォルフィは嬉しそうに微笑んだ。 「それはよかったです」 「ヴォルフィさんのおかげです」 「いいえ。評価されたのは、リリスさんが一生懸命がんばったからですよ。少しでもお役に立てたのなら、僕も嬉しいです」  ヴォルフィは会計をし、紙を差し出した。 「しばらくは週に一度来ていただけたらと思います。様子を見て、十日に一度、二週に一度、月に一度、と少しずつ薬を減らしていくのが目標です」  差し出された紙には減薬の計画と、貧血に効果がある食べ物について記されていた。リリスは思った。この人は純粋に私が健康に過ごせるように考えてくれている、と。胸がとくんと鳴り、リリスはヴォルフィへの好意をついに自覚した。
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