サキュバスリリスへの処方箋

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 一週間後、ヴォルフィはリリスから話を聞き、少し眉を寄せた。 「うーん……。思ったほどの効果は出ていないですね」  思案顔のヴォルフィにリリスはぎくりとする。  ヴォルフィへの好意を自覚してから、リリスの飢餓感は増した。最初は体調を改善してくれた貧血薬も、少しずつ効かなくなってきている。薬は身体の不調には有効でも、サキュバスの本性に作用する訳ではないので、おそらく効果が相殺されてしまっているのだ。 「とりあえず来週まで様子を見て、それでも結果が芳しくなければ、もう少し強い薬に変えましょう」  薬を変えても似たことの繰り返しになるのではないか、とリリスは予測する。ヴォルフィの厚意を無にするようで少し胸が痛んだ。  サキュバスだと知られてヴォルフィから嫌われてしまうことをリリスは恐れた。  普段の食事でどうにかならないかと、リリスは実家で暮らしていた頃のことを思い出しながら食料を買い求める。母や姉達は、卵やレバーのように滋養があるものと、牛の睾丸や魚の白子のように食材として売られている動物の雄の部分を、よく買ってきてくれた。食材は高価であったにも関わらず、残念ながらあまり効果はない。いかに律しようとも自分がサキュバスであることは決して翻らないのだと、リリスは思い知らされた。 「ああ、この飢餓感は食べ物では満たせない……」  どうしてもヴォルフィのことを思い浮かべてしまうのだ。手荒れの塗り薬を塗って甘い匂いを嗅ぎ、処方された貧血薬を飲むたびに、ヴォルフィが欲しくなる。
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