サキュバスリリスにできること

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 それから二週間、リリスはひたすら自宅と職場の往復に徹した。根性でなんとかしようとしたのだが、完全にふらふらで、まるでやり過ごせていない。朦朧とする頭では他の手を思いつかず、リリスは仕方なくヴォルフィの店を訪ねた。ヴォルフィはリリスの姿を認めるなり、即、奥の部屋へ案内し、厳命した。 「夜中に一人で帰るのは絶対にやめてください。最近、通り魔事件が多発していて危険なんです。目覚めたらリリスさんがいなくなっていて、とても心配でした」 「ごめんなさい……」  リリスがしょんぼりした表情を浮かべたので、ヴォルフィは気遣うように優しい声音で続ける。 「怒っているのではないんですよ。リリスさんが安全で健康な生活を送れるように、移動は明るい時間にしてほしいですし、せめて週一回は来てもらいたいんです」 「でも、ヴォルフィさんに迷惑では……」 「迷惑なことなんか何もないですし、リリスさんが来ない方が心配で困ります」 「ヴォルフィさんがよくても、他に気にする人がいたり……」 「僕に恋人はいないですし、もちろん妻もいません。いたらさすがにしません」  リリスはどさくさに紛れて気になっていたことを訊ね、誰かを裏切り悲しませるような真似をヴォルフィにさせていないことにはほっとした。  リリスは覚悟を決め、再び週に一度、店に通うようになった。ヴォルフィの厚意に甘えることにしたのだ。これ以上よい方法をリリスは思いつかなかったから。
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