サキュバスリリスにできること

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 リリスがヴォルフィに精を注いでもらい始めてしばらく経ち、草木は芽吹き日差しも暖かくなってきた。その頃には、リリスが泊まった翌日、ヴォルフィは料理を振る舞ってくれるようになっていた。ヴォルフィの料理の腕前は、リリスよりもよほど上だ。 「……とてもおいしいです」 「よかった」 「普段から自炊なさっているんですね」 「いえ、普段はあまり。自分一人だとどうでもよくなってしまって。特に何かに夢中になっていると、寝食を忘れがちです」  ヴォルフィはリリスのために料理をしてくれている。リリスは嬉しさと同時に申し訳なさを感じた。 「ヴォルフィさん。何か困っていることはありませんか?」 「僕がですか?」 「ええ」  与えられるばかりで何も返せない、そんな状態にリリスは慣れていた。だからこそ嫌だった。大切な人達に負担をかけてばかりで、できることが何もない無力な自分を思い知らされるのはつらい。リリスが家族の元を離れたのはそれもある。  自分にもできることがあると彼女は仕事を通して知った。自分にとってはできてあたりまえで、取り立ててすごいと思っていなかったことが、誰かの役に立って嬉しかった。今リリスはヴォルフィから一方的に与えられてばかりの状態になっている。些細なことでも何かできることがあれば、引け目を感じずに済むのではないかとリリスは思った。好きな人のために、自分も何かしたい。
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